【 マーケットの向こう側 】vol.6 Somi sweets & coffee 小國真以

 

“ NARAFOODSHEDと五ふしの草の共同制作で連載 ”

食べることを深く知り、考えるため
作り手や届け手、食べ手の思いを訊く

街のファーマーズマーケットに関わる人々を
“水を運ぶ者(裏方スタッフ)”がガイド的に寄稿するルポルタージュ
「マーケットの向こう側」

小さな農を土台とした地域循環の中で、
マーケット内外の農家さんや八百屋さん、料理人や裏方、お客さんたちの
人生にフォーカスし、作り手、繋ぎ手、食べ手の奥行きに触れる媒体です。

お互いの垣根を越えるきっかけになれば嬉しいです。

 

/ 文・写真 : 中部里保 (7.8.9枚目は奥田峻史さん提供)

/ 編集 : 赤司研介  榊原一憲

 


 

誰もが少し生きやすくなる未来へ。

2017年より、奈良市でプラントベース(植物由来の原材料を使用した食品や食事法)の菓子工房「Somi sweets & coffee」のオーナーを務める小國真以さん。
2025年には、家庭で出る生ごみや堆肥を持ち寄り、地域のコミュニティで共同管理する「コミュニティコンポスト」の活動を、育児をしながら開始されました。
お菓子作りとコミュニティコンポスト。
一見接点の見えない二つの物事になぜ取り組むのか。そこにはどのようなつながりがあるのか。その背景を聞くために、小國さんを訪ねました。
好きを仕事にするまでのこと 近鉄奈良駅から徒歩約10分。
若草山をのぞみ、静けさと人々の生活が感じられるきたまちエリアに、
小國さんと夫の惇さん、息子さんと犬1匹、猫2匹とが暮らす小國家の自宅兼工房があります。

 

 

 

小國 こんにちは〜!

3月のまだ肌寒さを感じるすっきりとした青空の下、小國さんはいつもの眩しい笑顔で迎えてくれました。
小國さんとの出会いは、自然農・有機野菜を扱う八百屋「五ふしの草」に勤めていた頃、
お子さんを連れて買い物に来られていたことがきっかけでした。
お店や奈良フードシェッドでお会いするたびに気さくに話してくださる人柄に惹かれて、いつかゆっくりお話したいなあとずっと感じていました。
そんな念願叶っての今回、知っているようで知らない小國さんに、そもそもの質問からぶつけてみました。

 

これを食べてもらったら絶対に楽しんでもらえる

 

ー そもそもなんですけど、お菓子作りを始めたきっかけってなんだったんですか?

小國 なんでやったんやろね。なんとなく……作る行為が好きやった。
図工も好きやったし、家にあった料理絵本を見たりして、子どもの時から親が家にいなくても、友達と料理の真似事ようなことをして遊んでいたのが始まりかな。
高校を卒業した後は、神戸にあるお菓子の専門学校へ行ってるのね。その時には「パティシエになろう!」と思って。結婚式のでっかいケーキを作りたかって。だけど、いざその業界に入ると、あれがほぼ細工された作りものだと知ってすごく驚いたな(笑)。

 

ー 早い時期から、お菓子の世界に進もうと決めていたんですね。

小國 そうでもなくてね(笑)。高校を卒業する前、地元の京都でバンケット(宴会のサービス)のアルバイトを始めて、専門学校時代もバンケットでずっと働いて。その時からお菓子よりも、そんな直にお客さんと関われる仕事にハマってしまって。
晴れやかな場が好きやったんよね。幸せな現場でする仕事にすごく憧れがあって。
それで結局、専門学校を卒業後はホテルで働くことに決めて(笑)。
あの戦場のような、お祭り騒ぎのような、スタッフみんなが誇りを持って働いているバンケットという現場が本当に好きだった。
その後、会社の経営状況の変化もあり、小國さんはバンケット業界を離れ、
バリスタ・カフェのスタッフとしてコーヒーやお菓子作りに関わっていくことに。

 

ー バリスタの世界へ飛び込んだのは、どういうきっかけだったんですか?

小國 バンケットでは人が作ったものを手渡す仕事をしていたけど、作り手にもなりたい気持ちが湧いてきて。
誰かに決められたものじゃなくて、なんかこう、「これを食べてもらったら絶対に楽しんでもらえる」って、そういう自信を持ったものを提供したかった。そんなことを考えていた時に、
自分が作り手にも手渡す立場にもなれるバリスタという仕事の存在を知って、「これや!」と思って。

 

ー 飛び込んでみて、どうでした?

小國 バリスタとして勤めて、自信を持っておいしいと思えるコーヒーを提供したいという気持ちがすごくあった。
でも、本当にバカなんだけど、当時の私はコーヒーが飲めなかった(笑)。おいしいコーヒーがなんなのかもわからなくて、その答えを探しあぐねていた時に、あるコーヒーの自家焙煎店を営む社長が「それやったら産地に行ってみる?」と言ってくれて。
それで中米のニカラグアへ、コーヒー豆の生産者に会いに行ったのね。

 

 

ー 実際行かれてみてどうでしたか?

小國 衝撃だった。コーヒーってなんなのかを実際見て、関わっている人の多さ、経ている工程、日本との生活水準や環境・文化の違いも目の当たりにして。
私はのうのうとさ、日々を暮らしていくことになんの危機感も感じずに、やりたいことだけをやってきているけれど、そんな私に対して、「この人をもてなしたら自分が作ったコーヒー豆を買ってくれるかもしれない、それで自分たちは明日も暮らせるかもしれない」という態度で接してきはるねん。
なんか、もうその……申し訳ない気持ちになって。なんて浅はかな気持ちでいたんだろうと。
その時に、「この人たちに対して私に何ができるんやろう」って思って、一層豆の個性・おいしさを表現できる技術を磨こうと思った。

 

ー 有機認証や農薬・化学肥料不使用栽培といったことを意識するようになったのはどうしてなんですか?

小國 コーヒー店に2年ほど勤めた後、バリスタとお菓子作りの経験を生かして京都のカフェに6年ほど勤めたんだけど、食材や加工品、カトラリーに至るまであらゆるものには作り手がいて、生産背景には自然と共生するための工夫や作り手の意図があるということを肌感覚で感じるようになった。
カフェのオーナーやお客さんを通じてたくさん教えてもらったなあ。だからコーヒーだけじゃなく、お菓子の原材料の背景も意識するようになったのがきっかけかな。

 

ー そこで、「カフェ」が出てくるんですね。

小國 当時の私は、「お客さんに笑顔になってほしい」という想いが人一倍強くて。バリスタとしてもっと上に行きたい、もっともっとおいしいコーヒーやお菓子を提供できるようになりたい、もっとお客さんが来てくれるようにしたいって必死だった。
それが自分の原動力なんだけど、反面こだわりが強くて、同僚に押し付けて傷つけたこともあったと思う。
同僚たちにも当然、それぞれの価値観がある。そのことに気付けなかったんだよね。「できるようになりたい」「認められたい」って気持ちが強くて。
それがいつからか、「自分のやり方が最善!」ってなっちゃっていた。
押し付けてたんやってわかってからは、こだわるのは自分だけでいいと思ったね。身の丈で始めようと。それで、開業することにしたの。

 

生産者とコミュニティコンポストへの思い 2017年、小國さんは奈良に拠点を移すと同時に「Somi sweets & coffee」をオープン。
京都を離れてこの地を選んだ理由を聞くと、「奈良に呼ばれて」と小國さんは笑います。

 

 

 

見えづらいことが当たり前になっている

 

小國 前から奈良はふとした時に行きたくなる場所で。通ううちに知り合いもできて、
「奈良で出会った人たちみんな優しいな」って感じていたら、間もなく物件の情報が入ってきて、その時の流れで他もあまり検討せず奈良に決めたんだよね。
開業当時は、イートインだと一人ではなかなか回せないから、お菓子をテイクアウトで販売して。
ずっと淹れ続けたエスプレッソも提供したかったけど、初期投資で機械が必要だから、それならドリップでやろうと。それを店の軒先で飲んでもらえるようにしていたんだけど、コロナで難しくなって。

 

2017年から2021年まで、きたまちでちょうど丸4年くらいお店をして、その後に結婚。息子が誕生して、今の出張販売のスタイルに落ち着いた感じかな。
お店のウェブサイトには「生産背景がわかる、人にも自然にも優しいお菓子作り」と書かれており、小國さんは「奈良フードシェッドという場が自分にとって心地良い存在になっている」と話します。


小國
 今の生活って、口にする食べ物や着ている服は誰が作ったのか、どこから来たのか、見えづらいことが当たり前になっている。
意識しても知ることが難しくて、知らぬ間に受動的に選び取っていることも多い。
それに、知ろうとして情報ばかりを集めても肌感覚が伴わなくて苦しくなってしまうこともある。
もちろん、生産背景が見えないものにも私は支えてもらっているんやけどね。
奈良フードシェッドでは、手にしたものの向こうにいる人や自然の存在を直に感じられることで、背景に想像が膨らむようになって、
毎月顔を合わせる関係性が生まれたり、今自分が生きている世界がより色濃くなったんじゃないかなあ。
奈良フードシェッドって、きっとそれを感じられる数少ない場所だと思う。
榊原さんがローカルな場所と出店者にこだわって開き続けてくれているからなんやろな。
自分も、そんな生産背景を感じられるお菓子作りを大切にしたいと思ってる。

 

ー そうした思いが、コミュニティ作りの活動につながっているんですかね?

小國 そう。それともうひとつ、初めて経験した育児での孤独がきっかけ。
「こんなに孤独を感じやすい状況で今生きてる人は育児してるの? しんどすぎひん?」と思って。
昔はきっと、もっといい距離感でご近所付き合いがあって、周りの大人が複数いる中で子どもを育てる環境があったんだと思うけれど、今はそうじゃない。
だから、これからの時代は安心・安全を感じられるコミュニティが一人ひとりに必要なんだなと強く感じた。

 

ー その方法が、なぜコンポストだったんですか?

小國 きっかけは二つあって。ひとつは仕入れ先の生産者さんと出会ったこと。
近い関係やからこそ見えてきた生産背景には、気候変動の影響を最前線で受けながらも、
さまざまな工夫を重ねて作物や自然と向き合っている生産者さんの姿があって。
そんな生産者さんに、私たちの日常を支えてもらっているし、その農作物があるから、
私はお菓子を作れていて、それを「おいしい」と言ってもらっている。 いつも「もらっている」という気持ちでいるし、なんかもう、生産者さんに任せっぱなしやなって。身の丈で開業するって決めたけど、一人でやっていると仕入れられる量ってすごく限られていて、「生産者さんを支える」だなんてよう言わん。
自分一人でできることの小ささを、開業してからずっと感じてる。

 

 

気づくと漠然とした日々の不安とかも少しなくなってる

 

ー もうひとつは?

小國 もうひとつは、『サーキュラーエコノミー実践』という本に出会ったこと。
京都のアースデーに息子と行った際に、著者の安居昭博さんが出店されていて、興味が湧いて読んでみたら、めちゃくちゃ面白かった!
ものすごくワクワクして。 掲載事例の中にコミュニティコンポストって活動があることや、
生ゴミを堆肥にすることで元気な野菜を作れるようになることを知って。
自分たちが出すゴミが資源になって、もしかしたら生産者に還元できて、一方的にもらっている状態から循環に変えていけるかもしれないと感じた。

 

小國 しかも、コミュニティコンポストが社交の場になって、いざという時に助け合える関係性が生まれたり、できた堆肥で野菜を作れたりする。そのことが「自分たちの生きる力になる」て言ってはる人もいて。
自分自身も育児に孤独を感じていたこともあり、「これをやりたい!」って強く思った。
それで南山城村で堆肥の学校をされている「ハト畑」の坂内さんに講師をお願いして、心強い方々と共に始めました。

 

小國さんが主催するコミュニティコンポストの参加者は、自身も家庭菜園や畑をしている方が多いそう。
「同じ目的を持って集まり、生き物の営み、自然を感じながら体を動かすことで関係性も深めやすいと感じている」と小國さん。


小國
 なんかさ、面と向かって「関係性を深めるために話をしましょう!」って言っても難しいじゃない?
一緒に体を動かしたら、それだけで緊張がほぐれて、ぽろっと話せることが生まれたりする。
そんなきっかけになるんじゃないかなと思うんだよね。
あとね、みんなでお世話するコンポストそのものが、たくさんの生き物の営みで、それを直に感じると私は感動して、
うれしくなって、気づくと漠然とした日々の不安とかも少しなくなってるんだよね。

 

(奥田峻史さん提供)

 

(奥田峻史さん提供)

 

ー これまでの活動を通じて、今後はどうしていきたいですか?

小國 コミュニティコンポストはコミュニティで作ることが目的だから、
その人に不安や苦しみがあるなら、それを少しでも軽くなる場になればいいなと思う。
みんなが今よりもうちょっと幸せに暮らせるような未来につながったらいいなって。
「Somi sweets &coffee」としては、またいつかは店舗を構えたい。
だけど今は息子との時間を楽しみたいから、また「今や!」っていう時がきたら動き出すかな。

 

「楽しんでる。けど、毎日必死やね」と、ポツリと口にした小國さん。
その言葉は、育児への思いと家族への感謝の気持ちにつながっていきました。

 

小國 私が感じてきた育児への孤独は、結局赤ちゃんと向き合うのがしんどいんじゃなくて、
今までの自分の生き方と向き合うことがしんどかったんだと思う。
育児をしていると、自分に課してきたこと、自分で許してこなかったことと向き合わざる得なくなる。
心のどこかで、「誰かに求めてもらえる自分でないといけない」って感じていたんだよね。だけどそんなことはなくって。
自分を幸せにするのも、自分を元気にするのも、自分。そのことが、いろんな人と関わりながら、教えてもらいながら、ちょっとずつ、やっとわかってきたような気がする。特にその機会を与えてくれた息子と夫には、本当に感謝しています。

 


 

この日、実は私自身が2ヶ月後に出産を控えたタイミングだったのですが、
私がまさにこれから向き合ってゆく子育てと仕事への不安は、帰り道を歩く頃にはすっと軽くなっていました。
誰しもがどこかに抱えている孤独や葛藤に向き合い続けてきた小國さんの言葉は、私の胸に迫ります。
もがきながらも、小國さんはいつだってやりたいことに真っ直ぐで、とても楽しそう。
いつも側にある日々を大切に、小國さんのように自分を幸せにできる人で在りたい。そんな風に感じた、心に残るインタビューでした。
眩しい笑顔で、たくさんのことを聞かせてくれた小國さんのこれからを、引き続き私も楽しみにしています。

 

(奥田峻史さん提供)