【 マーケットの向こう側 】vol.4 田原ナチュラルファーム 後篇 福井佐和

 

NARAFOODSHEDと五ふしの草の共同制作で特別連載。

 

食べることを深く知り、考え、作り手や届け手、食べ手の思いを聞くことをテーマに、
街のファーマーズマーケットやファームスタンドがガイド的に寄稿、連載するルポルタージュ「マーケットの向こう側」。
マーケットや、地域の農家さん、関係する八百屋さん、繋がるいろんな作り手、食べ手の方々の裏側というか、奥行きに触れていただけたらと思います。
田原ナチュラルファームの最終会、後編です。

 

/ 聞き手: 三宅翔子 / 写真:中部里保 /編集: 榊原一憲

 


 

もともと“結い”っていうのは農業で「助け合い」という意味

 

ー 個人の力では難しいことも、仲間で力を合わせることで少しずつでも動かしていける。次に案内してもらった「ゆいのいえ」に対する佐和さんの想いにも繋がっていくことになる。製茶工場から車で少し離れたところに、その場所はあった。「ゆいのいえ」の周りには、茶畑や、菊芋畑が広がっていた。

佐和 ここは、13〜14年前には借りてたかなぁ。
もともと大阪の方の土地やったんやけど、縁があって借りて。
お茶と畑を両方出来るスペースが欲しいなと思ってたから。
この小屋が「ゆいのいえ」で、手作りなんです。
もともと“結い”っていうのは農業で「助け合い」という意味って、畑の先生である阿藤先生から教えてもらって、まさしく私って「結い」で農業続けさせてもらってるなって思ったんですよ。
だから、お茶にも「ゆい」っていう名前を付けてたりするし、ここの小屋も「ゆいのいえ」って名付けようと思って。
ここは、最初畑の友達の男の子と、一緒に作ったんです。
古材をもらったり、石は河原で拾ってきたりして。

 

 

 

ー とても可愛い小屋は、まるで絵本に出てきそうな雰囲気。所々にステンドグラスもあしらわれていて、そのなかには「CHA」や「ユイ」の文字も。可愛い。
ステンドグラスも知り合いの奥さんに教えてもらって作ったんですよ。

佐和 小屋の中はこんな感じで。畳は貰いもん。笑
土を練って、竹も割いて、作っていきました。
それで10年ぐらいかけて、漸くここまできたんやけど、なかなか進まへんかって。
そうこうしてたら、昨年高校時代の同級生が子供さん達と一緒に来てくれて、お茶の景気が悪い話をしたら、「ここでイベントやろうや!」って言ってくれて。
その子は、数年前にたまたま再会して、5年ぐらい前からイベントでお茶売らせてほしいって言ってくれてた子で。
それで、この度7月にここで「おうちごはんっていいね」っていうイベントを二日間やったんですよ!
その友達が考えた企画なんやけど、一日目はマルシェで。
手作りのクッキーとか陶芸の瀬戸物とか。
甘酒もあったり、村のお弁当もあって。
二日目は、朝にここで朝ごはんを作って、お客さんに食べてもらうっていうのもやりました。
茶粥作って、具沢山味噌汁作って、天ぷらもここで揚げて、すももをデザートに出して、お茶の飲み比べも…。

 

ー こんな自然いっぱいの場所で、盛り沢山の朝ごはん…想像しただけで幸せな気持ちになる。笑

佐和 やっぱり現代人は疲れてる人が多いから…。
ここでゆったりとした時間を過ごしてもらえたら、そういう場所にここをしていけたら良いなと思ってます。

 

自分を迎えてくれた場所っていうご恩みたいなものがある

 

ー 今後、何かやっていきたいことはありますか?

佐和 もちろん、個人の「田原ナチュラル・ファーム」は一生懸命やるんですけど、それよりもなんか地域とか村のことかな。
やっぱり高齢な人ばっかりやったら、新しいことをやり始めるパワーもないから…。
例えば、私はやま里市場のスタッフもやってるんやけど、そこでマルシェをやったりとか、地域を盛り上げることに、今は自分のパワーも持っていってる感じかな。
ここに住んでて良かったな〜とみんなが思えるような活動を、これからまたやっていきたいです。
「田原ナチュラル・ファーム」の屋号を付けた時も、絶対“田原”は付けようと思ったんよね。
田原をもっと盛り上げたいとか、自分よりも田原を知ってもらいたいっていうのがあって。
やっぱり自分を迎えてくれた場所っていうご恩みたいなものがあるから…だから絶対“田原”は屋号に入れたかった。

 

 

 

ー 佐和さんの、この地域、田原への愛を感じた。

 

佐和 やっぱり、それがまた自分にも返ってくるんですよね。
今の40代50代が、自分も楽しみながら農業なり何かに打ち込んでる姿を下の子たちに見せていかないと…きっと田原という場所自体に、誇りとかそういうものを持たずに大きくなって、結局出て行ってしまうと思うし、それは辛いというか。
だから、今自分が楽しんで一生懸命やってる姿を見せて、そういう姿をまた継いでいけたら、自分の幸せに返ってくると思ってます。

 

ー 最後に、マーケットに来てくださるお客さんに、何か伝えたいことはありますか?

 

佐和 やっぱり暮らしの中で、もう少しお茶を飲んでもらえたら嬉しいかな。
春のお茶とか夏のお茶とか、季節によって全然違うしね。
例えば、ほうじ茶は身体を温めてくれるし。
梅雨の時期に刈り取った青い番茶、青番って呼ばれてる少しごわっとした番茶は、ちょっと渋めやから、汗かいた時にスカッとして身体を冷やしてくれたりね。
その季節の身体に合わせたものを選んで、飲むと良いよね。

 

ー その季節に自然が作り出してくれるものは、その季節の人間の身体にも負担なく染み渡る。もちろん、農家さんの営みがあってこそだけれど、改めてそう気付かせてもらった。いつも明るくパワフルな佐和さん。その明るさの裏には、農業を始められた頃からの色々な長い苦悩も沢山あるのだろう。ただ、そのキラキラと輝く佐和さんの瞳は、まっすぐ未来の世界を見ていた。そして、今回の貴重なお話から、私もほんの少しだけ、その世界を見せていただけたような気がする。佐和さんイチオシのほっとやさしい和紅茶チャイを飲みながら、じんわりとそう思った。

 

 

 

 


(おわり)