【 マーケットの向こう側 】vol.5 ハト畑 前編 坂内謙太郎 里恵

 

NARAFOODSHEDと五ふしの草の共同制作で連載。

 

食べることを深く知り、考え、作り手や届け手、食べ手の思いを聞く。
街のファーマーズマーケットの出店者さんやファームスタンドの出荷農家を
“水を運ぶ者(裏方スタッフ・シェルパ)”がガイド的に寄稿、連載するルポルタージュ「マーケットの向こう側」。
小さな農を土台とした地域循環の中、
マーケットや、地域の農家さん、関係する八百屋さん、繋がるいろんな作り手、食べ手の方々の裏側というか、
奥行きに触れていただけたらと思います。

 

/ 聞き手: 三宅翔子 / 写真:中部里保 /編集: 榊原一憲

 


 

 

 

自然の恵みそのものの、おいしい野菜づくり。
効率よりも、目の前の野菜に全力を尽くす。

自然豊かな高原、京都の南山城村・童仙房という山の上で「ハト畑」さん一家は、小さな農を営んでいる。
奈良市内から木津川を眺めながら山道を抜け、南山城村に入りました。

童仙房に入る前、近くでちょうどトマスコの加工作業をされているということで、まずは加工場を訪ねることに。
皆さんご存知、毎年夏になると登場するあの人気商品、ハト畑の「青トマスコ」!
加工場に到着すると、代表の坂内謙太郎さんと、奥様の坂内里恵さんが笑顔で出迎えてくれた。
青トマスコの加工は、里恵さんの担当。
朝採れの大量の青トマト、青唐辛子、ハーブたちが鮮やかに集められて、今から美味しいトマスコになるのを楽しみに待っているように見えた。

 

ツヤツヤで美しい青トマト。

 

里恵さんが一つ一つ手作業で皮を剥き、カットしていく。

 

やっぱりこの食材の元気さを届けたい!

 

ー このトマトは、青い段階で収穫しているんですか?

 

里恵 そうです。
元々トマスコ用に、メキシコのトマティーヨっていうホオズキの仲間のものを栽培していた時期もあったんですけど。
サルサソースとかに使われるもので。でも、今はこれで十分かなって思って。熟す前に採ってます。

ー 皮も剥くんですね!

 

里恵 そうなんです。
剥かんでも良いんちゃう?って言われるんですけど、一応剥いてます。
自分でもどうかなぁと考えたこともあるんですけど、やっぱり食感というか、皮が浮いてしまう感じにはしたくなくて。

ただ、剥くのは結構時間がかかるんです…笑
ちなみに、この剥いた皮は、ヤギの餌になります。
結構好きなんですよ。笑

ー そう仰いながらも、慣れた手つきで作業を進められる里恵さん。簡単そうに手際良く作業されているが、とても手間暇をかけて作られていることに頭が下がる。
作業は、いつもお一人でされてるんですか?

 

里恵 そうなんです、私一人で瓶詰めまでやっています。
「米粉むしぱんミックス」とかだと手伝ってもらうこともあるんですけど、トマスコはないですね。

 

ー 瓶やパッケージのデザインまで里恵さんがされていると伺い、驚いた!ハト畑さんのデザインは、どれもホッと柔らかい気持ちにさせてくれて、とても素敵だ。
この青トマスコも、里恵さんが考えられたんですか?

 

里恵 元々他の人が考えて作ってらっしゃったんです。
青トマトで、唐辛子入れて。
私達も、最初は秋に残ってしまった青トマトで作っていたんですけど、段々とそこにハーブとか入れるようになって。
今はトマスコ用も含めてトマトを栽培するようになって、割と気楽に作っていますね。
青い段階でトマスコ用に収穫したり、トマスコが作れなくても赤くなったらトマトとして売れるし。

 

ー ここに着いた時から思っていたんですが、トマトもですし、それ以外の食材も本当に綺麗ですね!

 

里恵 そうなんですよ。
やっぱりこの食材の元気さを届けたい!と思っていて。
今年のトマトはめっちゃ固くて良いです!
固いとトマスコにした時に、トマトの食感がシャキッと残るんですよ。
柔らかいとシャバシャバになっちゃう。
出来れば、色も綺麗に、シャキシャキも残しつつ作れたら良いなぁって。

結構ハーブも沢山入れてますね。辛いのが苦手な方や、お子様にも食べていただきやすいと思います。

 

ー 毎年私自身もお世話になっている青トマスコ。食べたことのある方なら共感していただけるであろう、あのやみつきになる味が、本当に美味しい。
トマスコはいつから商品としてあるんですか?

 

里恵 もう多分10年ぐらいになると思います。最初からありますね。

 

ー ロングセラー商品ですね!トマトを使った加工品って、色々ある中で、トマスコに落ち着いた理由はあるんですか?

里恵 元々私は調理とかをやっていた訳では無いので、もっと上手な人がいっぱいいるから…笑
ハト畑の加工品は素材勝負です。
トマトソースも作っていますが、たくさんの商品があって、でもトマスコ的な商品はハト畑のしかまだみたことないです。
だからオリジナルということで、トマスコがメインになりました。
あとは、トマスコが人気っていうこともあるかな。

 

ー トマトを切った後は、煮込んでいくんですか?

 

里恵 そうですね、出来るだけ火は入れないようにしてるんですけど。
この後、他の食材を洗って、瓶も洗って…そこから火を入れる感じですね。
一日がかりですね!
大体1回に80本ぐらい作ってます。
もっと増やすと、火が入り過ぎちゃったり、手間もかかるし…難しいですね。
でも、トマスコは結構割の良い商品なんです。
米粉むしぱんミックスとかだと、米粉を私が合わせてるんですけど…うん、トマスコで頑張って稼ぎたいと思ってます。笑

 

ー そんな人気商品の青トマスコだが、やはりトマトを使うため、加工できる時期も限られているようだ。
大体9月ぐらいまでだったり…全然作れなくて。もっと作れたら良いんですけどね。

里恵 ただ、今年のトマスコ!っていうように、シーズン初めは辛くなくて、段々辛くなっていきます、っていうのも良いかな?って思っていて。
やっぱり味の安定っていうのがすごい難しいんです。青唐辛子は、時期によって味が全然違って。

シーズン初めは全然辛くなくて、段々辛くなっていくんです。
本当は辛くない時期に、お酢で漬けたりして辛さを調整したら良いんでしょうけど、私はそこまでやってなくて。笑

 

ー トマスコは、★印で辛さがわかるようになってますが、これはどうやって決めてるんですか?

 

里恵 家族会議で、「これは★1かな?★2かな?」なんて言いながら、決めてます。笑

 

ー トマスコ以外に、今後考えてらっしゃるものはありますか?

 

里恵 唐辛子の調味料を作りたいなと思っていて。
タバスコとか、チリソースとか、そんな感じの調味料ってありますよね。
トマトの時期が終わった後に、青唐辛子が余るんですよ。それで何か出来たら良いなぁって。

 

ー ハト畑さんから、近い未来にまた新たな商品が生まれるのが楽しみだ。

 

 

 

 


(中編へとつづく)