【 マーケットの向こう側 】vol.5 ハト畑 中編 坂内謙太郎 里恵

NARAFOODSHEDと五ふしの草の共同制作で連載。

 

食べることを深く知り、考え、作り手や届け手、食べ手の思いを聞く。
街のファーマーズマーケットの出店者さんやファームスタンドの出荷農家を
“水を運ぶ者(裏方スタッフ・シェルパ)”がガイド的に寄稿、連載するルポルタージュ「マーケットの向こう側」。
小さな農を土台とした地域循環の中、
マーケットや、地域の農家さん、関係する八百屋さん、繋がるいろんな作り手、食べ手の方々の裏側というか、
奥行きに触れていただけたらと思います。

前回に引き続き、南山城村ハト畑。中編です。

 

/ 聞き手: 三宅翔子 / 写真:中部里保 /編集: 榊原一憲

 


 

 

ー 加工場をあとにして、いよいよ童仙房に入る。まずは謙太郎さん一家のご自宅に案内してもらった。隣に茶畑の広がる絵本に出てきそうな素敵な場所。立派な一軒家の周りには、ヤギの家や鶏小屋、遠くに犬小屋まである!全て自分たちで建てられたと伺い、驚いた。動物関係のお世話は謙太郎さんの担当だそう。ヤギと謙太郎さんはとても仲良しで微笑ましくなった。笑

 

謙太郎 いつも餌あげてるからね。笑
その辺の草をあげたり、トマトをあげたり。

 

ー さっき里恵さんが、トマスコのトマトの皮もあげるって仰ってましたね!

 

謙太郎 そう、それもあげるね。

 

ー ヤギの隣には鶏が沢山いた。鶏の天敵の野生の獣も近くにきっといるけれど、ヤギがいて怖いからか、意外と狙われないそうだ。鶏が産んだ卵は、謙太郎さん一家の食卓に並ぶ。

 

 

 

謙太郎 鶏の餌には家から出る生ゴミとか。コメヌカや野菜残渣を発酵させたものも使ってるね。

 

ー 犬小屋からは、元気な鳴き声が。名前はモモちゃんというらしい。猟師さんのところで生まれたモモちゃん。

 

謙太郎 全然太んなくてね、胴まわりがすごい細いでしょ。
普段はドッグフードだけど、時々猟師さんが解体した鹿のアラをあげてる。

 

ー 近くにはモモちゃんが食べた後の、鹿の骨が転がっていた。都会では絶対見ることのない、とてもワイルドな光景だった。笑

 

畑から出た廃棄するものを、餌としてあげる。ヤギがいることで、鶏が守られる。鶏の産んでくれた卵をいただく。その鶏の糞は堆肥を作る時に使う。…全ては循環していた。ご自宅をあとにして、続いて畑に案内していただく。畑は、謙太郎さんの担当。どんどん山深くなる道を車で走り、別世界のような静かな場所に着いた。ここがハト畑さんの原点、トマト畑のある場所だ!

 

 

 

謙太郎 この柵はね、かずくん(五ふしの草の榊原さん)とやったんだよね。
この奥は、実はまだじゃがいもが埋まってるんですよ。笑
どうしよう、草だらけになっちゃった。笑
最近妻はここには来てないんだけど、これ見たらひっくり返ると思うわ。笑

 

ー トマト畑に入るまでに、うっそうとした場所があったが、どうやらそこも謙太郎さんの畑だそう。

 

謙太郎 その隣には、こんにゃく芋が植わってる。笑
ズッキーニ、牛蒡、里芋。
あとは、ピーマン、茄子がもう埋もれてわかんなくなっちゃった。笑

 

ー ビニールハウスに到着し、いよいよトマト畑を見せていただくことに。ビニールハウスは二棟。片方は大玉トマトで、もう片方はミニトマトが栽培されている。入口には、獣よけの柵があった。

 

 

謙太郎 なんか知らんけど、小動物がねぇ…すごくて。ミニトマトがすごかったわ…。
柵もしてるけど、小動物なら頭さえ入ったら、中に入れちゃうから。
昨日もここにテント張って泊まったけどね、何も来なかった…残念。
犬も連れてきてたから、犬に噛み千切られて粉々になって欲しかったんだけどね。笑
やっぱり僕たちが居てるから来なかったんだろうね。

 

ー 傍には鳥よけもある。カラスもよく来るそうだ。ビニールハウスに一歩足を踏み入れると、外気よりもグンと室温の高い暑さの中、キラリと輝くトマトが沢山実っていた!

 

 

謙太郎 蜘蛛の巣に気を付けて!
蜘蛛がすごい沢山いるから。

 

ー 謙太郎さんの声とともに、本当に巣の多さに驚いた。

 

まぁ、こんな現場です。笑

 

謙太郎 無農薬だから、虫が多いからね。
やっぱり蜘蛛もその虫を狙ってるんだと思う。

 

謙太郎 どこまでもずらりと並ぶトマトたち。この猛暑の中、たくましく育った勇者に見えた。
トマトは、人が触れると匂いが出てくるんで、結構触れたところに匂いとか色が付いちゃうんですよね、黄色っぽく。

 

ー ハウスの中を歩くと、そこらじゅうから夏らしいトマトの青々しい香りが漂ってくる。個人的には、とても癒やされる夏の香りだった。雨量の少ないこの夏。水不足も深刻だそう。ところどころには、見ていてしんどそうなトマトの枝もある。

 

謙太郎 もう水がないんで、今はカラカラで。
本当はそこにタンクがあって、そこから水を汲み上げてやるんですけど、今はポンプが壊れていてあげられなくて。
ここは大玉トマトを植えたんだけど、なんか中玉っぽいんですよね。

 

ー 畑を案内してもらいながら、謙太郎さんがトマトをもぎ取って食べさせてくれた。ギュッと甘味と旨味の詰まった採れたてのトマト。ハウスの中のサウナのような暑さを忘れるほど、身体の奥深くまで染み渡る美味しさだった。トマトの周りには、トマスコにも使われているバジルなど、ハーブも植えられていた。

 

謙太郎 結構日光浴びて熱くなってるんだけど、美味しそうなの採って食べてください。
今年のトマトの出来は、こっちはあんまり良くなくて、枯れちゃってちょっと悔しい…。
でも向こうは良い気がしますね。
こんなにカンカン照りなのに、ちゃんと枯れずにいるので。
まぁ、こんな現場です。笑

 

ー 周囲には人の気配も一切ない、本当に静かな自然に溢れた場所。里恵さんもほとんど畑には来られないそう。この場所で、謙太郎さんは日々黙々とただ一人で畑と向き合っているのだ。

 

謙太郎 次はもう冬のことだよね、気持ちは。
…って言っても、あんまりやることはないんだけどね。笑
うさぎがひどくて…昨年はもう冬物は何もやらなかった。今年はやりたいんだけど。
本当にひどかったわ…植えた瞬間に無くなった。笑
もううさぎはどうやっていいのかわかんなくて…足跡はあるんだけど…。
近所のおっちゃん達には、そんなん罠で簡単やん!って言われたね。

 

ー 季節の流れとともに、その季節ならではの問題があるそうだ。
今はこの童仙房という自然に溢れた土地で、日々自然と寄り添いながら暮らしている謙太郎さん。元々は全く違う暮らしをされていたそう。

 

謙太郎 出身は東京で、大学は北海道の札幌にある北海道大学に通って…都会暮らしだったね。
大学では、地質学を学んで。卒業して、大阪でサラリーマンとして働いて。

 

ー 全国転々と移り住んできた謙太郎さんが、この南山城村の童仙房に移住してきたきっかけも、また興味深かった。

 

謙太郎 昔、この地域の廃校を会場にして、「山の上マーケット」というイベントがあって。
もう今は終わっちゃったんだけども。
そこにお客さんとして遊びに来たのがきっかけで…1回で決めたね。

 

ー 1回で決められたんですか!?

 

謙太郎 うん。笑
僕はあんまり思わなかったんだけど、彼女がね。笑
当時僕は、サラリーマン9年目ぐらいだったかな。
彼女は岩手出身だから、その頃岩手のほうに行こうかなと思ってたんだけど、その頃地震があって、それどころじゃないなって思って。
それでどうしようかと思っていたら、たまたまこの地に出会った。
僕はもうちょっと、加茂あたりが良いかな?と思ったんだけど…平地で。

 

ー 当時、イベントに里恵さんと一緒に遊びに来られ、この場所を気に入り、家族で移住して来られたそうだ。里恵さんの決断力にも脱帽した。

畑に興味を持たれたきっかけは何かあるんですか?

 

謙太郎 大阪で勤めていた会社が、結構大きな敷地のある会社で、畑班っていうのがあったんですよ。
そこに入って。そこから興味を持っていました。
あとは、“ほぼ日”の特集で家庭菜園の特集をしてて。
何とか農法とかいう…それは普通に化学肥料使うやつだったけど。
それで、あぁ!自分でも出来そうだなぁ!と思って。

 

 


(後編へとつづく)