【 マーケットの向こう側 】vol.5 ハト畑 後編 坂内謙太郎 里恵

NARAFOODSHEDと五ふしの草の共同制作で連載。

 

食べることを深く知り、考え、作り手や届け手、食べ手の思いを聞く。
街のファーマーズマーケットの出店者さんやファームスタンドの出荷農家を
“水を運ぶ者(裏方スタッフ・シェルパ)”がガイド的に寄稿、連載するルポルタージュ「マーケットの向こう側」。
小さな農を土台とした地域循環の中、
マーケットや、地域の農家さん、関係する八百屋さん、繋がるいろんな作り手、食べ手の方々の裏側というか、
奥行きに触れていただけたらと思います。

南山城村ハト畑の最終回で後編です。

 

/ 聞き手: 三宅翔子 / 写真:中部里保 /編集: 榊原一憲

 


 

 

 

ここの自分の畑をもっと美しくしたいな


謙太郎 
その頃は、農業と家庭菜園が別物って分かってなかったけどね。
トマトを選んだのは、ここが昔から高原トマトってトマト栽培の盛んな地域だったから。
近くに教えても良いよって言ってくれる人もいたんで。
今はもう三件ぐらいしか残ってないんだけどね。

ー 畑をしていく中で、特にこだわっている部分はどんなところですか?


謙太郎 
やっぱり堆肥はこだわってますね、自分で作ったりして。
僕がやってるのは有機栽培なんで、化学肥料は使わない。
有機栽培では、有機肥料とかぼかし肥料とか、堆肥を使ったり…あとは全く肥料を使わないっていうやり方もあるんですけど。
有機肥料っていうのは、鶏糞とか米糠とか、微生物分解が全くされてない生のもの。
それをバーッと畑に撒いて使う。
ぼかし肥料は、半生っていうか、微生物分解が一ヶ月ぐらいされたもの。
堆肥は、微生物分解がしっかりされたもの。僕は昔、有機肥料でやってたんですよ。

ただ、そうするとね、雨が降ったりすると、肥料が結構腐ってきて…害虫とかアブラムシがワーッと湧いて、ひどくて。
トマトの葉っぱにもいっぱい付いて…。
それで、これはどうしようもないなと思って、堆肥の勉強を始めたんだよね。
有機栽培でも、未熟な肥料を使うと腐敗してしまって、その腐敗したものが地下水に流れて、河川を汚染するなんてことも、無いことは無かったり。
あんまり過剰な鶏糞とかを入れたりとか、畑自体がすごい臭いをしてるとか。
たまにあるんですよ、おじいちゃんがやってる畑とか、畑自体が臭いなぁ…って時が。
僕がやってるのは、完熟堆肥なんで、分解されるべき有機物を全部微生物分解させたもので。
半年ぐらい熟成させたものを使ってます。
それを撒くと、全然虫が湧かなくて臭いも無くて、初めはびっくりした!笑

 

ー 有機肥料でそんなに虫が湧くなんて、知らなかった。肥料によって、違いがそこまで顕著に現れるとは、とても興味深い。
やっぱり学生時代に学ばれた地質学も活かされてるんですか?

 

謙太郎 いや、それは全然活かされてないですね。
忘れちゃってるから。笑
今、一から勉強中です。

 

ー その完熟堆肥は、初めは何をきっかけに知ったんですか?

謙太郎 和束のセミナーかな。
無料セミナーがあってね、そこで教えてくれる人に出会って。
そこから、ちゃんと教えてくださいって言って、色々やり始めたね。
今はその堆肥について、色々な人たちに伝えていってて。

 

ー 謙太郎さんは、ご自身の畑以外にも、京都の和束町で完熟堆肥、和束コンポスト学校の講師も務められている。

 

謙太郎 今年で二回目かな。
大体半年ぐらいかけてやっていくんだけど、学校みたいに何人か集まってもらって、僕が教える。
来てくれて有難いね。僕自身もやってて面白いし。

 

ー 学校について話されている時の謙太郎さんからは、畑の話をされている時とはまた違った、力強さを感じた。謙太郎さんが、ふと、そう言えば…と口を開く。

 

謙太郎 この前のさ、パタゴニアのあれ(五ふしの草とパタゴニアの共同企画「農業の話をしよう」のクロストーク)、僕にとったら一つの回答だったんだけどさ。

すごい良かったよね。あれはすごかったと思う!もうなんかね、自分のやってることの方向は正しいなって。
目標にすべきところだなと思った。人の成熟というのも、わかった気がするし。

山の話もね…この辺は冬は雪が降るから、僕は農業諦めて山仕事してるんですけど。

“伐り旬”っていう言葉も初めて聞いたけど、ちょっともう何それ〜と思って、ドキドキしましたね!笑
普段から余程ちゃんと木のことを見てないとわからないだろうし、僕はチェーンソー持ってバンバン切っちゃうから。笑
今まで自然農ってよくわからなかったんだけど、なんか初めてわかった気がするよ。
自然農の良いところって、本当に汚染する物が何も無いってことだよね。本当に行って良かった!

 

ー 何度も何度も、すごかった!と仰っていた謙太郎さん。私自身もあの日あの場所であの話を聞いていたが、確かにとても濃い時間だった。

謙太郎さん自身は、今後やっていきたいことはありますか?

 

謙太郎 今後は、ここの自分の畑をもっと美しくしたいなと思ってますね。

まぁ、それは結果であって…自分が成長したい。人として熟成…もうちょっと大人にならないといけないなって。笑

 

いつも一緒にいるから、そういうところは計り知れないんやと思うし。

 

ー 畑の傍には、謙太郎さんが倉庫として使っている立派な建物があった。昔、茶工場として使われていた場所だそうだ。今はそこで、堆肥も作っているとのことで、見せていただいた。中には、毛布のような大きな布を被せられた、山のようなものがいくつかあった。


謙太郎 
最近様子を見てないから、どうなってるかな。
これは、鶏糞とか米糠とかを混ぜていて、まだ成分が馴染んでないから、ここからまだまだ発酵させないといけないんだけれども、とりあえず一旦これでおしまい。
発酵してるから、熱くなるんだけど、最初は60℃ぐらいが続いてました。
あとは、何回か繰り返して、自分で混ぜないといけないですね。
もう完全に冷えきっちゃったんで、また発酵させないといけない。
来年ぐらいに使えたら良いかなって。
ちなみに完成したら、こんな感じになるんですよね。

 

ー もう何が何だかわからない、ほぼ土!

 

謙太郎 こっちは、鶏のエサにしてるやつで、色んなものを放り込んでます。
多分捲ると虫がワーッと出てくると思うので、捲らないけど。笑

 

 

ー ふかふかしていて、とても気持ち良さそうな堆肥だった。これが完熟堆肥!傍には鶏のエサも作られていた。
ハト畑として、家族として、パートナーとして…謙太郎さんと里恵さんそれぞれに、お互いのことについても話を聞いてみた。

 

謙太郎 妻は、よく僕に付き合ってくれてるなって思う。
金銭感覚もないし、計画性もないし…無茶苦茶なのに。笑
あとは、子供の面倒をよく見てくれて、嬉しいです。
真ん中の子が野球をやってて、こんなくそ暑いのにそれについて行ったりね。
それから、料理も美味しい!仕事の面では、結構大変ですよ。笑

今は加工はもう全部任せてるんだけど、忘れ物や探し物が多くて…それが結構大変かな。笑
最近は自分で取りに来るようになったけど。笑

 

ー 里恵さんはどうですか?

 

里恵 私も、謙ちゃんはよく我慢してくれてるなと思います。笑
私は、本当によく忘れ物や探し物をするんですけどね。笑
今朝も電話鳴らして!って言ってたんです。笑
子供は高1、小6、小2って三人いるんですけど、子供からしたら良いお父さんやと思いますね。
やっぱりこういう仕事やから、いつも一緒にいるから、そういうところは計り知れないんなと思うし。
何か頼んだらやってくれるし、そういう柔らかさはあるかなぁ。
なんやかんや、地域の人たちからも信頼されてるから、ちょこちょこした作業を頼まれたりしてて。
やっぱり頼みやすいって重要じゃないですか。

あとは、まだ農家ちゃうんちゃうかなぁって思います。笑

でも、トマトの味はピカイチやと思ってますね!

ー 味は本当に!ピカイチです!

大学時代から長年連れ添ったお二人。謙太郎さんも里恵さんも、少し照れ臭そうに、でも嘘のないありのままの言葉で答えてくれた。謙ちゃんの作るトマトはピカイチ!と仰っていた里恵さんの言葉が、とても輝いていて素敵だった。周囲を山に囲まれた自然溢れる童仙房。
そこで一歩一歩一途に農的暮らしをされている謙太郎さん一家。
指揮者的な役割をすることが多いけれど、本当はプレイヤーになりたい!と話されていた謙太郎さんの言葉が印象に残っている。
2012年からハト畑を始められ、変わらず日々を歩み進められて、もう10年以上。謙太郎さんが指揮者でもあり、プレイヤーでもあるからこそ、ここまでのハト畑の物語があるのではないかと思った。そして、これからもハト畑の物語は続いていく。

ちょうど村の分かれ道、謙太郎さんとも別れ、帰路につく。
走り出して間もなく、激しい通り雨にあった。この夏久しぶりの雨だった。
「謙太郎さん喜んでるやろなぁ。」と、運転手の榊原さんがぽつりと呟く。東の空、ちょうど童仙房の方面に、大きな虹が出ていた。

 

 


(ハト畑編おわり)